さて、やってまいりました。

ブルーアイスの正体を追え!後編でございます。

ツイッターやミネラルショーで「前編見たよ!後編楽しみにしてます!」といったお言葉を多々頂いております!

皆様、ありがとうございます!けっこう興味がある方が多いのですね!!

 

前回のまでのあらすじですが、

蛍光X線分析をしたものの、結局何だか分からない!という状況でした。

もう私一人の力では解決できないので、 化学に詳しい人物に相談することにしました。

その詳しい人物というのは、とある大学に属して物質・材料の研究を行う傍ら、

自らもベンチャー企業を立ち上げ、物質の解析や商品開発を行っているという、まさに化学に長けた方です。

仮に名前を「K先生」としましょう!

K先生にいきさつを説明し、現物写真や蛍光X線分析結果を渡すと、すぐに返答がありました。

「おそらくアルミナですね」

 

アルミナとは、酸化アルミニウムのことで、化学式はAl2O3。

電気絶縁性も高く、耐摩耗性、化学的安定性もあり、かつ比較的安価なので、幅広い分野に使われる素材です。

天然にはコランダム(ルビー、サファイア)としても産出します。

詳しくはネットで検索してみてください!

 

さらに、K先生からの提案です。

「天然か人工物か判別したいのであれば、粉末X線回折検査を行ってみてはいかがでしょうか

 

粉末X線回折検査とは、粉末にした測定物にあらゆる角度からX線を当て、反射したX線の強度を測定します。

この反射したX線は回折X線と言って、どの角度で強くなるかは結晶構造及び構成成分によって決まっています。

そして、世の中にある、ありとあらゆる物質の検査結果はデータベース化され、

それらとパターンマッチング(何の検査結果と近いか)を行うことで、未知の物質の正体を断定、判別します。

この検査はその名の通り、測定物を「粉末」にしますので、宝石鑑別の世界ではあまり聞かないかもしれませんが、

一般的にはかなり有効な検査です。

詳しくは、これまたネットで検索してみてください。特に検査機器メーカーの説明は分かりやすいです。

 

さて、提案はありがたいのですが、1個粉末にする必要があるし、検査費用も発生します。

すでに赤字なのに、さらに悪化させるのか・・・ と迷いましたが、

ここで止めても中途半端ですし、もうここまで来たら行くとこまで行こう!!

 

数日後、検査結果およびレポートが届きました。

 

 

 

さて、こういったレポートを見ると頭が痛くなる方も多いと思いますので、

ざっくり概要を説明します。

・粉末X線回折検査の結果、人工物である「銀挿入アルミナ」と一致。

・ただし、蛍光X検査において、銀は含まれていない事が分かっているので、銀の代わりに鉄やニッケルといった重金属が挿入されたもの。

・よって、本品は重金属を含むアルミナで、人工物である。

と、なります。

 

ここで、重金属というと、いかにも毒性がありそうですが、

重金属というのは比重が4以上の金属を差しますので、鉄や金、銀も重金属です。

そして、いくつかは人体の必須元素ですらあります。

ようは、毒かどうかは、摂取量の問題ということです。

塩とか水もそんな感じですから、重金属という言葉に過剰に反応する必要はないでしょう。

鉱物標本なんて、ものによっては重金属の塊ですからね!

 

 

 では、もっと詳しく理解したい人の為に、内容を説明していきます。

グラフ1、2が、ブルーアイスの検査結果です。横軸がX線を当てる角度、縦軸が反射したX線の強度で、

細い山のような波形が複数ピョコピョコあります。これをピークといい、ピークがどの角度に出るかは、結晶構造によって決まっています。

ちなみに、グラフ1がブルーアイスの青い部分、グラフ2が白い部分です。両者はピークの位置が重なる為、結晶構造は同じであると言えます。

ピークの高さが違うのは、構成成分の種類、比率が違う為です。

 

そして、このブルーアイスの検査結果を、蓄積されたデータベース内の結果と比較していきます。

すると、「銀挿入アルミナ」という人工物質とマッチングしました。グラフ4がデータべース内の銀挿入アルミナの検査結果です。

最後のグラフが、ブルーアイスと銀挿入アルミナの検査結果を重ね合わせたもので、ピークが一致しているのが分かります。

ただし、今回は蛍光X線分析で、銀は含まれておらず、代わりに鉄やニッケルが含まれていたことが分かっているので、

銀の代わりにそれらの重金属が挿入された構成だろうと考えられます。

そして、この重金属を含んだアルミナは、有機合成用の触媒に用いられるようで、

(有機合成とは、炭素原子を含む化合物を化学反応を使って合成すること。触媒とはその化学反応速度を早める物質です

本品もそういった化学系廃棄物、それを基にしたスラグのようなものかもしれない、とのことです。

 

なお、20°以下の領域も考察して頂きましたが、この領域は、例えば資料固定用のテープの材質だったり、

空気中の成分も入ってきたりするので、断定はなかなか難しいそうです。

ただ、この部分は、本品が天然か人工かといった、今回の検査目的の本質的な部分にはあまり関係がないとのことです。

 

以上に結果より、ブルーアイスは

「重金属を含むアルミナであり、人工物である」

と断定します。

 

さて、ここでこのように思った方が居るのではないでしょうか?

「アルミナって、天然ではコランダムとして産出するんでしょ?

 天然ルビーやサファイアだって、鉄やクロムといった重金属を含んでいる訳だし、それらとはどう違うの?」

 

実はこれ、私が疑問に思ったことで、K先生に確認しました。

 

まず、検査結果のデータベースには「天然コランダム」は存在します。

つまり、自動検索ではそれとはマッチングしてないと判断された訳です。

なぜか。それは結晶構造の違いにあります。

レポート内の記載、さらに銀挿入アルミナの結晶構造図にあるように、

銀挿入アルミナというのは、酸化アルミニウム(Al2O3)と銀が層状に重なる構造です。

一方、天然コランダムは、アルミニウムの一部がクロムや鉄に置き変わったものです。

この結晶構造の違いが、明確に粉末X線回線検査結果に表れ、自動検索ではじかれた訳です。

 

さらに疑問をぶつけてみました。

「では、天然のコランダムでも不純物を一切含まない、完全なAl2O3だったとしたら、天然か人工か判別できるのでしょうか?」

回答は

「不純物を含まない、完全に純粋なAl2O3だとしたら、粉末X線回線検査結果も同じになり、判別はできません」

とのことでした。

ただし、そういったものは天然には存在しないと考えてもいいレベルらしいです。

 

最後に総括

いかがでしたでしょうか。

未知の物質の正体を暴くといのは、とても労力が必要なんですね!!

これは一般の方にはオススメはできませんね!

 

さて、今回のブルーアイスですが、完全に宝飾業界とは分野が違う素材でした。

正直、これを宝石鑑別機関が断定するのは難しいでしょう。

現に、ある鑑別機関が本品の鑑別を行った際、人工物ではあると思うが、何なのか分からないので断定できない。

といった話を聞きました。

もしかしたら中央宝石も、軽く見た段階で、自分たちの分野外のものだと判断したのかもしれません。

おそらく、鑑別機関では「鑑別不可」か、「模造石」、「セラミクス」等と出るではないかと思います。

鑑別費用がお安い所では、近しい既存の特性に当てはめてしまい、何かしらの天然石と出るかもしれません。

もしその場合、このページを見た皆様は、どんな科学的根拠があってそうなったのか、疑ってください。

それで納得できるものなら、興味があるので、是非当ラボにお知らせください!

 

今後も面白い商材があったら、いろいろ解析していこうと思います!

また、皆様の方で、これは是非解析して欲しい!というものがあったらお知らせください!

あと、解析費用捻出の為、ネットショップやミネラルマルシェで何か買って頂けると助かります(^^)/

それでは!!!